永遠に続くストレスは存在しない!

人には、いつの間にか刷り込まれている思い込みや信念(マインドセット)があることは先述しました。そういった思い込みには、能力や知性は生まれつきのものであり、変えることはできないといったものもあります。

しかし、『成長する思考態度』があれば年齢や性別に関係なく、誰でも進化し続けることができることが最近の研究で明らかになってきています。成長を自ら止めてしまう人の考え方を『固定された思考態度』、自分は成長できると信じている人の考え方を『成長する思考態度』といいます。

両者の最大の違いは、『自分をよく見せたい』と思っているか、『学びたい』と思って医いるかです。固定された思考態度をもっている人は、少し邪魔が入ると挫折して、学ぶことをやめてしまいます。そして、他人の成功を脅威とみなすようになります。

一方で、成長する思考態度をもっている人は学びたいという欲求が先にたっているため、困難や挑戦を進んで受け入れ、粘り強くやり続けます。結果何をやるにしても成功率が高くなります。

マインドセットを書き換える実験は海外では多数行われており、どれも高い効果を示しています。たったの30分で書き換えに成功した例もあります。アメリカでの実験ですが、カルフォルニアにある、もっとも貧しい地域にの一つにある、学力も最低レベルの高校の9年生(14歳)の子どもたちに、

●将来のあなたは今のあなたとおなじになるとは限らない
●人からどう扱われようが、どんな人間だと思われようが、あなたがその通りのにんげんだとは限らないし、将来そうなるとも決まっていない
●人間はよい方向へ変わることができる

といったことを教えたあとで、『人間は変われる』と思った出来事を、自身のことを含めて書かせました。この介入実験は学年が始まるころ行われました。学年が終わる頃、追跡調査をしてみると、この実験を受けた生徒と受けなかった生徒では驚くべき差が出たのです。

実験を受けた生徒の81%が幾何の単位を取得できたのに対し、受けなかった生徒は58%しか取得できなかったのです。健康状態、精神状態も実験を受けた生徒のほうが良好でした。

この実験は生徒たちに実験だということを説明せずに行いましたが、実験の過程を説明をした上で、大人に実験をしても効果がありました。しかし、不思議なことがあります。数年たつと、大半の人がこのような実験に参加したことをあまり覚えていないのです。ある大学での調査では、1年生のときに実験を受けた生徒に卒業前にアンケートをとったところ、全体の8%くらいの生徒しかこの実験のことを覚えていなかったそうです。しかし、実験で書き換えられたマインドセットはしっかりと定着していました。

新しいマインドセットが定着すると、がんばらずに必要な行動をとることができるようになります。マインドセットを書き換えるには、まず、新しい考え方を学ぶ必要があります。学んだら、日常生活でそれを少しづつ実行して、できたらその経験を誰かと共有すると一層効果があらわれます。身近な人とやってみてはいかがでしょうか

歴史的有名人の人生はストレスだらけ!?

歴史上の偉大な人物は、生涯精神的病と闘っていた人が意外と多いことが知られています。

アメリカ大統領エイブラハム・リンカーン、イギリスの首相チャーチル、インド独立運動の父ガンジーがうつ病をわずらっていたことは、メンタルヘルスを仕事にしている人にはよく知られた話です。

この三人の生きた時代は、戦争で世界中が大きな混乱に巻き込まれていた時期でもあります。こうした混乱の時代に対応するのは並大抵の能力ではできません。じつは、混乱時に実力を発揮した政治家は、精神的に健全な人は、あまりいないのです。

じつはうつ病には、現実を正しく認識する能力や、逆境からの反発力(レジリエンス)、他人との共感力や想像力を最大限に発揮させる力があることがわかっています。逆に精神的に健全なタイプの政治家は、平和なときには良いリーダーとなりますが、非常時に的確な判断や行動ができないことが多いのです。

例えば、前アメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュは人間的には健全な考え方をもった人でしたが、9.11がおきたときのその後の対応は後々まで世界中から非難されることになりました。健全な精神の持ち主は、自分の誤りを率直に認めるのが苦手であり、一度権力を手にすると自分の力を過信し、事実認識を見誤ることが多いのです。これは政治家でなくても、思い当たることがある人が多いのではないでしょうか?

しかし、うつ病は、常に不安にさいなまれているゆえに、自分を過信することなく事実を見極めることができるという側面があるのです。しかし、こうした指導者が力を発揮できたのは、周囲の支えも大きかったことも否定できません。

うつ病でなくとも、大きなプレッシャーを感じながらも大成した人は他にもいます。中長あわせて200以上の小説を執筆したミステリーの女王、アガサ・クリスティは一度失踪事件をおこしています。原因は夫の浮気とされています。後に夫とは離婚し、夫は相手の女性と結婚します。

事件後、マスコミはアガサをしつこく追いまわし、ありもしない憶測を書きたてます。このことがアガサの心に深い傷を負わせます。彼女はこれをきっかけに大変なマスコミ嫌いになってしまいました。

しかし、その後も精力的に執筆活動をつづけ、『ABC殺人事件』や『そして誰もいなくなった』などの傑作を残しました。

うつ病を発症するほど頑張る必要はありませんが、これは強いストレスを克服することがレジリエンスを飛躍的に成長させることの証明ではないでしょうか?

上記に挙げた人はすでに故人ですが、現代の日本でも芸能人やプロのアスリートなど、強いプレッシャーを受けながら活躍している人はたくさんいます。インターネットで名前を検索すれば、こういった人たちのエピソードはあっという間に探せます。その中から自分に似たタイプの人を探して、その人の習慣を真似てみるとストレスに強くなる方法が見つかるかもしれません。

ストレスの身体的反応への対処方とは

ストレスが役に立つものだとはいっても、強いプレッシャーがかかると自分ではコントロールできない身体的反応が出てきます。心臓がドキドキする、口が渇く、汗が止まらないなどがあります。

大勢の前でプレゼンテーションをする場合、音楽や演劇の発表会で大勢の前で楽器の演奏や演技をしなくてはならない。これは誰でも経験する、ごく当たり前のストレス反応です。避けることはできません。しかし、このストレス反応を利用してプレッシャーを克服する方法があるのです。どうせ避けることができないなら、より有利なほうへ利用してしまいましょう。

ストレス反応には様々な種類があることが最近の研究でわかってきています。強いプレッシャーがかかったときに失敗することが多いのは、『闘争・逃走反応』がおきたときです。緊張しても、成功した、大きな失敗をしなかった場合は『チャレンジ反応』がおきていたと考えられます。

この二つは身体的反応は心臓の鼓動が早くなるなど、よく似ているのですが、ふたをあけてみると、かなりの違いがあります。『闘争・逃走反応』は、危害が及ぶことを予測しておこります。体の欠陥が収縮し、体は炎症をおこします。免疫細胞を活性化させ体の回復を早めようとします。

『チャレンジ反応』は、危害を予測していないので、体はリラックスしたままで、欠陥は収縮しておらず、血流量が大幅に増え、力を最大限に発揮できる準備を整えます。

ストレスが健康に悪いといわれる原因は、『闘争・逃走反応』にあります。短期的にみれば役に立つのですが、長期に渡れば心臓病や老化の原因にもなります。『チャレンジ反応』は病気になる原因は作りません。

プレッシャーのかかる状態で『闘争・逃走反応』がおこる人と『チャレンジ反応』がおこる人の違いはどこにあるのでしょうか?それは、『ストレスは役に立つ』という考え方ができるかどうかです。

これも海外の大学での実験です。実験の参加者を3つのグループにわけて即興のスピーチをさせられます。ただし、3つのグループのうち1つのグループには『ストレス反応が起こるのは、必要なエネルギーを終結するためであり、心臓がドキドキしていたら、心臓が体と脳に酸素を送り込もうとしてがんばっているからです』と、ストレス反応が役に立つことを説明します。
2つ目のグループには、ストレス反応を感じても無視するのがいちばんいいと説明します。(実験のためのウソです。役にたちません)

3つ目のグループにはテレビゲームをしてもらて、ストレスを発散するように支持しました。ストレス反応の説明はありません。

結果は1つ目のグループにははっきりと『チャレンジ反応』がおこっていました。2つ目と3つ目のグループは『闘争・逃走反応』が出ていました。スピーチの評価も、1つ目のグループの多くが高評価を受けました。

強いプレッシャーを与えられる立場になって、ストレス反応が出たら、このことを思い出しましょう。『うまくやるために体が助けてくれている』『体が準備を整えている』と思えたら、厳しい状況に対処する力が湧いてくるのではないでしょうか。

リラックスしようとするとイライラが倍増する?

リラクゼーションの本来の意味は、交感神経の働きが抑えられ、副交感神経が優位になっている状態をさしますが、広い意味では息抜きや気晴らし、癒しなど、ストレスを解消する方法の意味にもなっています。

ストレス解消をネットで検索すると本当にいろいろなものが出てきます。ヨガ、温泉、アロマテラピー、エステ、最近はスピリチュアルも目立つようになってきました。ここまで多いと、自分に合うものを探すのも一苦労です。

リラックスしたり、リフレッシュしたりするのは悪いことではありません。しかし、あまりのめりこみすぎると思わぬ落とし穴があったりもします。特にストレスがかかってつらい状況にあるとき、『癒されたい!』と思っているなら、注意が必要です。

癒しというのは自分の問題を第三者に『丸投げ』している状態です。その瞬間は癒されて、つらいことや苦しいことが解消されたように感じますが、問題はそのまま放置されたままです。根本的な解決にはなっていません。そうすると、もっと強力な癒しを求めるようになってしまいます。

行き過ぎると、不倫にはまってしまう人もいます。最近は仕事のストレスや家庭内の不和が原因で不倫に走ってしまう人もいるようです。お手軽に不倫相手を探せるサイトが増えているのも一因かもしれませんが…。

しかし、不倫というのは相手の配偶者や職場にばれると、厄介な問題が増えることになってしまいます。癒されるどころの話ではありません。

また、スピリチュアルをきっかけにカルト宗教にのめりこんでしまう人もいます。カルトは勧誘の仕方がじつに巧妙です。最初は占いや、治療やリラクゼーションを装って近づいてきます。大学生にはサークルとみせかけて近づいてくることも多いようです。

とくに現代は、誰もが先行きに不安を感じています。そうした不安をたくみについてきます。何か問題を抱えていて不安を感じているときは注意が必要です。

こういったものにひっかからないようにするにはどうすればよいのでしょうか?精神科や心療内科で行われる『認知行動療法』にヒントがありそうです。認知行動療法は、パニック障害など、強度のストレスからくる症状を治療するために行われます。

この治療の基本は自分がどんな状況に置かれているか、それに対してどんな感情をいだいているか、どんな行動、対処方をとっているかを記録して、自分自身を客観的に見ることから始まります。それをお医者さんなど、治療にあたる人が見てその状況を再現しながら、状況を打開する方法を探すのです。

この治療法のように、自分の行動を記録し自分の抱えている問題と感情に注意を払うと、冷静に対処できるようになります。

また、自分の感情を数値化するのも効果があります。例えば、感情に1から10のレベルを設けて、『今の状況はどのレベルか?』という問いかけを自分にしてみるのです。1や2など低いレベルだったら、その感情をもたらした原因を細かくチェックします。そうすることで、いやな気分になっても、自分を保つことが容易になります。

リラクゼーションや癒しはほどほどにとどめて、今の自分の状態を常にチェックすることもストレスとうまく付き合うためには大事なのです。

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