ストレスをなくすと寿命が短くなる!?

日本は今、団塊の世代が続々と定年退職しています。退職金と年金をもらってこれから悠々自適な生活が待っている。うらやましい…。と思いきや、そうでもない人も結構いるようです。

定年後、うつを発症する人が意外と多いということはご存知でしょうか?何十年も会社のために、家族のためにとわき目もふらず仕事一筋でやってきたタイプに多いようです。なぜでしょうか?

まず、職を失った喪失感が挙げられます。自分を評価してもらえる場所を失い、『じぶんは誰からも評価されていない』と思い込んで、自分の存在価値を見失ってしまうことから悲観的になり、うつを発症してしまい、自殺を選んでしまう人すらいます。

また、『退屈』も大きく原因していると思われます。イギリスでの研究ですが、33~55歳の公務員を対象に、退屈のレベルを調査しました。その後の追跡調査で『非常に退屈である』と回答した人の死亡リスクが37%も高いことが報告されたのです。

彼らの多くは、人生に喜びを見出すことができず、タバコや飲酒などの健康を損なう生活習慣がその一因となっていることが明らかになったのです。また、退屈は心臓疾患の病にもかかりやすくなることもわかったのです。

それとは対象的に、いつも目的意識をもって生活している人や何か新しいことに挑戦している人は、うつになることもなく長生きする傾向があることも確認されました。新しいことに挑戦するということは、なんらかのストレスがかかることになります。

こういった点から見ても、ストレスは必ずしも悪いことばかりではないことがわかります。『生きがいのある人生を送っている』という自覚がある人は、意外とストレスフルな環境にいることは、先述しました。

定年後のうつを防ぐには、趣味をもつことがいいといわれています。また、なるべく頻繁にご近所づきあいをすることも効果的だといわれています。ボランティアに参加することも推奨されています。

これらはすべて、『充実した人生にはストレスがつきもの』『人助けは人を強くし、健康になれる』に重なります。人助けをすると自信がつくこともわかっていますから、ボランティアも理にかなっています。

忙しい人ほど人生が充実しているという調査結果もありました。一つのことに取り組むともいいのですが、あらゆることを同時進行でやることも退屈するのを防ぎます。当然ながら、ストレスもかかるわけですが、充実感も増すことになります。

『もう年だから』『いまさら自分にできることなんてない』などと先入観をもたずに、少しづつでもいいので、新しいことを始めてみてはどうでしょうか。日本人の寿命は男性でも80歳近くあります。65歳で定年退職したとしても、残りの人生は15年もあるのです。

また、パートナーと士別すると、寿命が短くなるというデータもあります。喪失感からくるストレスも寿命を縮めるのです。それを防ぐためにも、充実感を味わえるものを探しておく必要があります。

ストレスを避け続けると負のスパイラルが待っている

ストレスはあえて受け入れたほうがよい、ということを中心に話を進めてきましたが、逆に、プレッシャーのかかること、不安なことを避けているとどういうことになるのでしょうか?

人ごみの中にいると心臓がドキドキしてきて、呼吸困難などがおきる『パニック障害』という病気があります。ある女性がこの病になってしまいました。ところが、お子さんが電車で小学校に通うことになり、毎日それに付き添っていかなければなりません。

この女性は以前にも電車で症状が出て、それ以来なるべく自転車を使うようにし、電車はさけていました。しかし、これがよくなかったのです。

何か強い不安を感じたり、PTSDになっているときは、一時的にそこからみを引くの正しい行動です。しかし、不安というものは15分ほどたてばだいぶ落ち着いてきます。1時間半もあれば、ほとんどゼロになってしまいます。

しかし、女性は症状が出たところで電車を降りてしまっていたのです。そのときは救われた気分になるかもしれませんが、これで脳が『電車はダメだ!』と間違った学習をしてしまったのです。

パニック障害が常に出るとは限りません。少し勇気を出してそのまま乗り続けていれば、大丈夫だった可能性もあるのです。不安なものを避け続けていると、恐怖は倍増してしまうのです。きびしいようですが、少しづつでも立ち向かっていかないと、いつまでも克服することはできません。この女性は後にお医者さんの指導のとおりに少しづつならしていって、克服することができました。

電車くらいであればまだいいですが、つらいことを避け続けていると、思わぬチャンスを逃してしまうことも考えられます。また、無力感がどんどん膨らんで、行動することができなくなります。

何か重大な役割を任されたとき、それを辞退したり、放棄したりしたら非常に大きな代償を払うことになりかねません。または、目の前にある問題を見て見ぬ不利をするためにアルコールやパチンコで気を紛らわせたりしていませんか?

ストレスを避けつづけると、こんなにストレスを感じるのは自分に能力がないからだという思い込みを強めてしまいます。『ストレスは害になる』と思い込んでいると、ストレスに打ちのめされて無力感が襲ってきます。結果、うつ病を発症したり寿命がちぢんだりしてしまうのです。

『ストレスは役に立つ』『ストレスには意義がある』と思っていた人は、ストレスフルな状況にあっても健康な状態を保っていたということを思い出してみてください。

『ストレスが体に悪い』というのは世間からあなたに刷り込まれた、一般的な価値観です。ストレスのかかる状況が大きなチャンスに繋がると認識を書き換えれば、ストレスに対して大きな不安を抱えずにすみます。

すべてのストレスが良いものだとはいえませんが、だからといって避けてばかりいると、毎日が無味乾燥なつまらないものになってしまいます。ストレスが、生きがいと密接につながっていることを忘れないようにしましょう。

人助けは人を強くし、健康になれる

ストレスの『闘争・逃走反応』は人が進化する過程で、身を守るためにそなわった機能です。しかし、逃げるか、戦うかの2つだけで身を守ることは不可能です。じつは、ストレスを感じると他者へのいたわりや、共感が生まれることがわかってきています。どういうことでしょうか?

日本では東日本大震災、熊本大震災と立て続けに大きな地震がありました。こんな大きな災害にあったら、もう自分が逃げ出すのが精一杯で、人のことどころじゃない!と思うのが普通…と思いきや、実際にテレビに映し出されたのは震災にあった人々が助け合っている姿でした。

地震がおさまった後は、全国から続々とボランティアが集まりました。熊本大地震のボランティアには、東日本大震災や阪神大震災で被災した人も多かったようです。人は大きなストレスを感じると、体内にオキシントンというホルモンが分泌されます。別名『愛情ホルモン』『抱擁ホルモン』とよばれ、誰かと繋がりたいという欲求をおこさせる作用があります。

それだけではなく、『闘争・逃走反応』を防ぎます。例えば、地震で自分の子どもが家の下敷きになっていたら、親は何が何でも救い出そうとします。オキシントンは、危険をかえりみず、自分の大切なものを守ろうとする勇気をもたらします。これも、子孫を残すために進化の過程で身に付いたものです。

しかも、大きな災害や事故の後でなくても、日常で頻繁に人助けをしていると強いストレスを受けても健康を害することを防ぐことができることもわかってきました。

人助けは自己評価を高める作用もあります。ある研究者が仕事で時間に追われるプレッシャーを軽減する方法を研究していました。時間的余裕がないと、往々にしてストレスがたまりやすくなり、思わぬミスをしてしまうことがあります。

さんざん忙しい思いをさせた後で実験の参加者に自由時間を与え、一方には『好きなように時間をすごしてください』といい、もう一方には『人助けのために時間をつかってください』と支持しました。その後で、自分の自由に使える時間をどれくらい持っているか?いつもどれくらい時間がないと感じているか?という二つの質問をしました。

すると、時間を人助けに使った人たちのほうが、時間がないという感覚がうすいという結果がでました。さらに、自分の能力や仕事についても自身がつき、仕事に対するプレッシャーが軽減されたのです。

意外ですが、忙しいときほど人助けをしたほうが、余裕をもつことができるという結果がでたのです。

ストレスの反応にはいろいろあります。つらい状況にあるときは、ついつい自己防衛におちいるあまり、周りの人のことを考える余裕がないときもあります。これは『闘争・逃走反応』がおきているときです。

しかし、こういう時にこそ人の役に立つことをすれば、かえって自分のためになる、ということを思い出しましょう。どんな小さなことでもいいから、人のためにできることを考えましょう。自分のためにばかり行動していたら、かえって反発を招いてしまいます。

ストレスをプラスに変えるにはどうすればいいのか?

ストレスは健康に害を及ぼすものであり、なるべく避けたほうが良いもの、というのが常識でした。それは間違っているとはいえません。ストレスには様々な種類があり、ストレスから発症する病気で世界中で多くの人が亡くなっているのです。

インターネットでストレスを検索しても、『ストレスをなくすには』『ストレスを解消方法』など、ストレスを極力遠ざけるように薦める情報が氾濫しています。

アメリカでストレスに関してある研究が行われています。

3万人を対象に『この1年間でどれ位のストレスを感じたか?』『ストレスは健康に悪いと思いますか?』という2つの質問をしました。1998年のことです。

その8年後、この3万人のうち何人が亡くなっているかを追跡調査しました。その結果、強いストレスを感じていた人たちは、43%死亡リスクが高くなっていました。ただ、その人たちは『ストレスは健康に悪い』と考えていた人たちでした。健康に悪いと思っていなかった人たちは、強いストレスにさらされていても死亡リスクは上がっていなかったのです。

むしろ、ストレスをほとんど感じていない人たちよりもリスクは低いくらいの結果だったのです。これは何を表しているのでしょうか?どうやら、ストレスが人に悪影響をあたえるのは『ストレスは健康に悪い』という強烈な思い込みからくるのではないか、というのがこの調査の結論でした。

逆を言えば、この思い込みを取り払えばストレスに苦しむことはないということになります。実際に、海外の大学や研究機関では、様々なストレスに関する実験や調査が行われ、『ストレスは役に立つ』といった情報を被験者に与えると、被験者の意識が変わり、ストレスを感じても前向きに行動できるようになったという報告がたくさんあるのです。

ストレスは体に悪いという考え方から、ストレスは役に立つという考え方に変わるにはどうすればいいのでしょうか?

ひとつの方法として、ほかの人が以下にしてつらい状況から立ち直ったかを知ることがあります。わたしたちが毎日見るニュースは想像以上に健康状態を左右しています。大規模な自然災害や、悲惨なテロの映像を見るだけで、PTSDを発症する確率が大幅に上がるのです。

この状況をうけて、アメリカでi vohという団体がたちあがりました。悲惨なニュースを報道するのではなく、被害を受けた人たちの『回復の物語』を報道する活動をしています。回復の物語とは、被害を受けた人たちの再生のプロセスをありのままに伝えることです。

だれかのトラウマの経験を通して、成長することを心理学では、『代理レジリエンス』『代理成長』いいます。これは、人の心のケアに関わる仕事をしている心理療法士や、救急医療に携わる医者や看護師にも見られます。

『回復の物語』は、自分自身でやってみることもできます。自分の過去でつらかったこと、それをどうやって克服したかを書き出してみることでも、代理レジリエンスを高める効果は期待できます。人に見せる必要はありませんから、一度ためしてみてはどうでしょうか?

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