そもそも、ストレスとは何か

ストレスという言葉は、ハンス・セリエという生理学者が1936年がイギリスの科学誌『ネイチャー』で『ストレス学説』を発表したことで広く知られるようになりました。セリエは、この学説の中でストレスを『外部環境からの刺激によって起こる歪みに対する非特異的反応』と定義し、その現象を起こす要因を『ストレッサー』と名づけました。
人の体や心は、常に一定のバランスをバランスを保つように調節されています。このことはホメオタシス(恒常性)を維持するという表現をつかいます。このホメオタシスをコントロールする仕組みを『生態機能調節系』といい、主に自律神経系、内分泌系、免疫系の3つがあります。
自律神経は交感神経と副交感神経の2つからなっています。自律神経は人間の臓器をコントロールする働きがあります。自律神経は昼間、人間が活発に活動しているときに働きます。副交感神経はそれとは逆に、リラックスしているときや、睡眠時に働きます。
内分泌系は主にホルモンの分泌をつかさどります。ホルモンは内分泌腺(甲状腺、副腎など)から必要に応じて血液に放出され、その作用を必要とする部位にまで運ばれます。アドレナリンなどは特に有名で、血圧上昇や心拍数の上昇につながり、ストレスとも密接な関係があります。
免疫系は白血球やリンパ球など、外からの異物(ウイルス、細菌など)を排出する機能をになっています。
人の健康は、このような様々な機能によって支えられているのですが、外部からあらゆる物理的、心理的なストレッサーをうけることによって、人の心理面、行動面、身体に影響を及ぼします。これをストレス反応といいます。一般に広く知られているストレスは、このストレス反応をさしていると思っていいでしょう。
ストレッサーが生体機能調節系を刺激し、ストレス反応が起こるということは比較的早くからわかっていましたが、生態機能調節系の仕組みが解明されていなかったため、なぜストレスが人の心身に大きな影響を与えるのかは、長い間ブラックボックスのままでした。しかし研究がすすみ、生体機能調節系の働きがわかってくると、ストレッサーの種類によって、ストレス反応にも違いが出てくるということがわかってきました。
ストレスには、『身体的ストレス』と『心理的ストレス』の2種類があります。身体的ストレスは環境や物理的な要因(天気、騒音、タバコ、アルコールなど)が原因でおこるものではり、心理的ストレスは職場や家庭などの人間関係が原因でおこります。
身体的なストレスと、心理的ストレスは脳のかかわり方が違うといわれています。マウスを使った実験ですが、一匹には金網でくるんで動けなくする、電気ショックを与えるなど(ひどい…)の物理的ストレスを与えます。もう一匹には、透明なアクリル板で作った部屋からそれを見せます。これは心理的ストレスを与えることになります。
身体的ストレスは脳幹の延髄を通して、視床下部と視床に伝達されます。視床下部は生体機能調節系をつかさどっています。
心理的ストレスは、大脳皮質と大脳辺縁系を通して視床下部に伝達されていきました。大脳皮質は主に人の脳で発達しており、自分の今の状態を認識する働きがあります。大脳辺縁系は、つらさなどの感情に関わっています。心理的ストレスが、心にも影響を与えるのはこれが原因になっていると考えられるのです。