こうした、大きなストレスを乗り越えることができるのは、その人が持っている価値観も大きく影響しています。震災に遭ったことで、価値観が大きく変わった人もいると思います。1990年代のある海外の大学の研究では、こんな結果が報告されています。

この実験では大勢の大学生に協力してもらい、休暇の間に日記をつけてもらいました。大学生は二つのグループに分けられ、一つのグループは自分にとって一番大切な価値観と、自分の価値観に結びつく行動について書いてもらいました。もう一方のグループには、その日のよい出来事を書くように指示しました。

休暇がおわり日記を回収し、学生たちがどのように休暇をすごしたかを聞き取り調査しました。さらに、回収した膨大な日記を綿密に調査したのです。その結果、自分の価値観について日記を書いた学生は、健康状態、精神状態も良好なことがわかったのです。休暇の間にストレスを感じていた学生ほど、日記の効果が大きかったこともわかりました。

休暇の中で、面倒だと思っていたことや、家族のことでわずらわしいと思っていたことも、自分の夢をかなえるための一歩になる、家族への愛情表現としての行動だと思えるようになったのです。

価値観を紙に書いて明確にするという作業は単純ではありますが、ストレスを感じた経験の考え方を変え、対応能力を向上させるという作用があることがわかったのです。紙に書くだけでこれほどの効果があるなら、やらない手はありませんよね?

価値観とは、日ごろ自分が大切におもっていることが反映されています。日記の実験を行った同じ大学で、今度は自分の価値観を紙に書いて、それをキーホルダーに入れて持ち歩くように指示しました。ストレスを感じる環境になったら、それを見て、自分の価値観を思い出すようにしたのです。

効果はてきめんでした。キーホルダーを身に着けた人は、困難な状況に立ち向かう勇気がもてたのです。例えば、夫が初期のアルツハイマーという診断を受けた夫婦がいました。夫婦はそれぞれのキーホルダーに自分が一番大切にしている価値観を紙に書いていれました。妻は『忍耐』夫は『ユーモア』と『誠実』でした。

それから一週間、妻は何かあるたびに『忍耐』を見てそれを実行しました。ある日、夫が携帯をなくしましたが、なんと、冷蔵庫に入っていたのです。見つけたのは妻のほうです。夫は『そんなところに置いた覚えはないんだけどなあ』とおどけてみせました。夫の『ユーモア』のおかげで、二人は深刻な事態を回避できたのです。

ただ、注意しなければならないことがあります。その価値観は本当に自分のものか?ということです。私たちは身近にいる人、例えば親や会社の同僚などからつねに影響を受けています。『いい大学に入って、一流企業に入る』とか、『勉強で一番になる』などは、無意識に自分以外の第三者の目を気にしている可能性があります。

実は人間関係のストレスは、このような『人に良く思われたい』『この人にほめられたい』というとらわれから来ていることが多いといわれています。他者の価値観を自分の価値観と勘違いしてしまっているのです。

自分の価値観にしたがって生きているはずなのにストレスを感じたら、本当に自分の価値観なのか、注意する必要がありそうです。