人助けは人を強くし、健康になれる

ストレスの『闘争・逃走反応』は人が進化する過程で、身を守るためにそなわった機能です。しかし、逃げるか、戦うかの2つだけで身を守ることは不可能です。じつは、ストレスを感じると他者へのいたわりや、共感が生まれることがわかってきています。どういうことでしょうか?

日本では東日本大震災、熊本大震災と立て続けに大きな地震がありました。こんな大きな災害にあったら、もう自分が逃げ出すのが精一杯で、人のことどころじゃない!と思うのが普通…と思いきや、実際にテレビに映し出されたのは震災にあった人々が助け合っている姿でした。

地震がおさまった後は、全国から続々とボランティアが集まりました。熊本大地震のボランティアには、東日本大震災や阪神大震災で被災した人も多かったようです。人は大きなストレスを感じると、体内にオキシントンというホルモンが分泌されます。別名『愛情ホルモン』『抱擁ホルモン』とよばれ、誰かと繋がりたいという欲求をおこさせる作用があります。

それだけではなく、『闘争・逃走反応』を防ぎます。例えば、地震で自分の子どもが家の下敷きになっていたら、親は何が何でも救い出そうとします。オキシントンは、危険をかえりみず、自分の大切なものを守ろうとする勇気をもたらします。これも、子孫を残すために進化の過程で身に付いたものです。

しかも、大きな災害や事故の後でなくても、日常で頻繁に人助けをしていると強いストレスを受けても健康を害することを防ぐことができることもわかってきました。

人助けは自己評価を高める作用もあります。ある研究者が仕事で時間に追われるプレッシャーを軽減する方法を研究していました。時間的余裕がないと、往々にしてストレスがたまりやすくなり、思わぬミスをしてしまうことがあります。

さんざん忙しい思いをさせた後で実験の参加者に自由時間を与え、一方には『好きなように時間をすごしてください』といい、もう一方には『人助けのために時間をつかってください』と支持しました。その後で、自分の自由に使える時間をどれくらい持っているか?いつもどれくらい時間がないと感じているか?という二つの質問をしました。

すると、時間を人助けに使った人たちのほうが、時間がないという感覚がうすいという結果がでました。さらに、自分の能力や仕事についても自身がつき、仕事に対するプレッシャーが軽減されたのです。

意外ですが、忙しいときほど人助けをしたほうが、余裕をもつことができるという結果がでたのです。

ストレスの反応にはいろいろあります。つらい状況にあるときは、ついつい自己防衛におちいるあまり、周りの人のことを考える余裕がないときもあります。これは『闘争・逃走反応』がおきているときです。

しかし、こういう時にこそ人の役に立つことをすれば、かえって自分のためになる、ということを思い出しましょう。どんな小さなことでもいいから、人のためにできることを考えましょう。自分のためにばかり行動していたら、かえって反発を招いてしまいます。

ストレスをプラスに変えるにはどうすればいいのか?

ストレスは健康に害を及ぼすものであり、なるべく避けたほうが良いもの、というのが常識でした。それは間違っているとはいえません。ストレスには様々な種類があり、ストレスから発症する病気で世界中で多くの人が亡くなっているのです。

インターネットでストレスを検索しても、『ストレスをなくすには』『ストレスを解消方法』など、ストレスを極力遠ざけるように薦める情報が氾濫しています。

アメリカでストレスに関してある研究が行われています。

3万人を対象に『この1年間でどれ位のストレスを感じたか?』『ストレスは健康に悪いと思いますか?』という2つの質問をしました。1998年のことです。

その8年後、この3万人のうち何人が亡くなっているかを追跡調査しました。その結果、強いストレスを感じていた人たちは、43%死亡リスクが高くなっていました。ただ、その人たちは『ストレスは健康に悪い』と考えていた人たちでした。健康に悪いと思っていなかった人たちは、強いストレスにさらされていても死亡リスクは上がっていなかったのです。

むしろ、ストレスをほとんど感じていない人たちよりもリスクは低いくらいの結果だったのです。これは何を表しているのでしょうか?どうやら、ストレスが人に悪影響をあたえるのは『ストレスは健康に悪い』という強烈な思い込みからくるのではないか、というのがこの調査の結論でした。

逆を言えば、この思い込みを取り払えばストレスに苦しむことはないということになります。実際に、海外の大学や研究機関では、様々なストレスに関する実験や調査が行われ、『ストレスは役に立つ』といった情報を被験者に与えると、被験者の意識が変わり、ストレスを感じても前向きに行動できるようになったという報告がたくさんあるのです。

ストレスは体に悪いという考え方から、ストレスは役に立つという考え方に変わるにはどうすればいいのでしょうか?

ひとつの方法として、ほかの人が以下にしてつらい状況から立ち直ったかを知ることがあります。わたしたちが毎日見るニュースは想像以上に健康状態を左右しています。大規模な自然災害や、悲惨なテロの映像を見るだけで、PTSDを発症する確率が大幅に上がるのです。

この状況をうけて、アメリカでi vohという団体がたちあがりました。悲惨なニュースを報道するのではなく、被害を受けた人たちの『回復の物語』を報道する活動をしています。回復の物語とは、被害を受けた人たちの再生のプロセスをありのままに伝えることです。

だれかのトラウマの経験を通して、成長することを心理学では、『代理レジリエンス』『代理成長』いいます。これは、人の心のケアに関わる仕事をしている心理療法士や、救急医療に携わる医者や看護師にも見られます。

『回復の物語』は、自分自身でやってみることもできます。自分の過去でつらかったこと、それをどうやって克服したかを書き出してみることでも、代理レジリエンスを高める効果は期待できます。人に見せる必要はありませんから、一度ためしてみてはどうでしょうか?


借金を返済できないというお金のストレスは、早く解消しておくほうがよいでしょう。
参考記事→ローンは返済できなければ債務整理が必要!

ストレスからくる不調は専門家でも治せない?

ストレスも考え方次第で身体への影響が変わってくるということはわかりましたが、それでも何らかの不調が顔を出すことはあります。そういうときは、専門家に相談したほうがいいのではないか…という場合も、もちろんあります。

しかし、一口に専門家といってもいろいろな人がいます。ざっと挙げるとこんな人たちがいます。

●精神科医
●心療内科医
●心理カウンセラー
●臨床心理士

です。心の問題の治療をする、という点では共通しているのですが、心の扱いや、出来ることは大きく違っているのです。

精神科医は文字通り、医師国家試験に合格したお医者さんです。診察を受けにきた人に何らかの精神疾患があると判断したら、検査や投薬などの治療行為をします。

心療内科医もお医者さんですが、精神科医とは扱う領域が異なります。精神科医が精神疾患そのものを診断しますが、心療内科医は、ストレスからくると思われる体の不調や病気を治療します。

心理カウンセラーは民間の資格をとった人がなれます。医者とちがい、医療行為は一切できません。時間をかけて、話をじっくり聞き自立の手助けをします。

臨床心理士も医者ではありませんから、医療行為はできません。主な活動は検査です。知能検査や性格検査をして、病気の予測をし、病院を紹介するということも行います。民間資格ですが、大学院を卒業していること、精神医学を学んでいることが資格取得の条件です。

どれも必要な役割ではあるのですが、やることが見事にばらばらです。一体、どこへば解決できるのでしょうか?

一ついえるのは、どれも根本的な治療にはならないということでしょうか?やはりそれだけ心を扱うというのは難しいということなのでしょう。
民間のストレス解消方やリラクゼーションもいろいろあります。ヨガ、アロマ、マッサージ…挙げていくとキリがありません。逆に、それだけストレスに悩まされている人が多いにも関わらず、根本的な解決策がないことの現れのようでもあります。

ストレスで苦しいときに第三者の助けを求めるのは、悪いことではありません。むしろ、一人で抱え込むほうが危険な場合もあります。しかし、医療機関やリラクゼーションを利用するまえに確認しておいたほうがいいことがあります。

それは、自分の問題を他人に解決してもらおうとしていないか?ということです。問題解決を他人に丸投げ、人任せにしようとしていないか、ということです。

お医者さんに診てもらったり、カウンセラーに話を聞いてもらったりすれば、それで一時的に救われたり、楽になったりはするかもしれません。しかし、根本的な問題解決にはなっていません。ストレスの元を根本的に解決しようと思わなければ、問題はそのまま放っておかれることになって、消えてなくなることはありません。

お医者さんもカウンセラーも、所詮は他人です。サポートはしても解決はしてくれないのです。問題解決の一助にすぎないということを割り切らないと、よけいに苦しいことになるかもしれません。

ストレスへの考え方を見直そう!

充実した人生を送りたいなら、ストレスはさけられない。頭ではわかっていても、実際にストレスの多い環境に身を置いて、本当に自分を保っていられるか自信がない…。なにかいい方法はないものでしょうか?ストレスに対応するためには、マインドセットが重要になってきます。英語でmindsetと表記します。和訳すると、人の固定された考え方、物の見方、習慣ということになります。

ストレスにはコルチゾールやデヒドロピアンドロステン(DHEA)というストレスホルモンが関係しています。コルチゾールは糖代謝や脂質代謝を助け、体や脳のエネルギーを使いやすくする作用があり、ストレスを感じたときには関係の無い機能を抑える役割をもっています。

DHEAは、ストレスの経験を通して脳が成長するのを手助けし、コルチゾールの作用を抑制し、治癒能力、免疫機能を高める効果があります。この二つのうち、どちらが優位に働くかで、身体に及ぶストレスの影響が違ってくるのです。とくに長期的なストレス、慢性的なストレスに大きく影響します。

コルチゾールの量が多いと免疫機能が低下したり、うつを発症する可能性があります。DHIAが多くなると、うつや心臓病など、ストレスからくる病気にかかるリスクを軽減させます。

コルチゾールに対してDHEAの割合が高くなると、ストレスに対する抵抗力が強くなり、粘り強く頑張りとおすことができるのです。コルチゾールに対するDHEAの割合がストレス反応の成長指数と言われています。

じつは、ストレスに対するマインドセットを変えるだけで、コルチゾールとDHEAの量が変化することが実験でわかっています。

被験者を二つのグループに分け、就職の模擬面接をうけてもらいます。面接を受ける前に、一つのグループにはストレスはいかに健康に悪いかを説明するビデオを見せ、もう一つのグループには、ストレスは実はよい効果があるというビデオを見せます。面接が終わったあとで、被験者のストレスホルモンの量を調べました。

すると、ストレスのよい影響を説明したビデオを見たグループのDHEAは、ストレスは健康に悪いと説明したビデオを見せたグループより高い割合をしめしたのです。

マインドセットは誰にでもあるもので、それ自体はいいものでも悪いものでもありません。しかし、マインドセットは知らず知らずのうちに、あなたの考え方や行動に影響を与えるものです。『ストレスは体に悪い』と思い込んでいたら、ストレスを避けるために、問題解決をのための努力を怠ったり、ストレスを紛らわすためにアルコールやギャンブルにのめりこんでしまうなど、人生に様々な問題をかかえてしまう可能性があります。

しかし、『ストレスにはよい面もある』ということを認識していれば、ストレスの元になる問題を解決しようと努力したり、新しい情報や知識を学ぶ、成長するチャンスと捕らえることができるなど、ストレスを恐れずに行動することができるようになります。いま、あなたが抱えているストレスも、ただつらいと考えるよりも、新しいスキルや問題解決方を身に着けるチャンスと考えれば、それほど苦にはならないのではないでしょうか。

充実した人生にはストレスがつきもの

ストレスは極力避けたほうがいいもの、ストレスを感じる環境にはなるべく身を置かないほうがいい。というのがストレスの常識でした。

しかし、ストレスのまったくない生活は寿命を縮めるという調査報告があるのをご存知ですか?え?逆じゃないの?と思うかもしれません。しかし、事実です。

ある調査では、アンケートに『非常に退屈している』と答えた40代の男性を20年にわたって追跡調査しました。すると、心臓発作で死亡するリスクが2倍以上になる、という結果が出たのです。過去には定年退職した男性は、平均寿命が寿命が以外と短いという報告もありました。

毎日忙しすぎて、ストレスがたまる一方だと思っている人にはちょっと意外かもしれません。しかし、ストレスを避けようとすると、さらに新たなストレスが生まれていくこともわかっているのです。どういうことでしょうか?

ストレスを感じるときというのは、その人の人生において重要な局面に直面していることが少なくありません。ある大学の心理学の教授はこのことを『エベレスト斜面で過ごす寒くて暗い夜』と表現しています。

独立して事業を始める、親になるなど、人生には困難なことがいろいろと待ち受けています。そのことは、私たちはは多かれ少なかれ認識しています。しかし、避けて通りたくても、その問題が消えてなくなってくれることはありません。寒くて暗い夜をじっと耐え忍ばなくてはいけないのです。しかし、そこに意義を見出せたら、耐えることは不可能ではなくなるはずです。

消防隊員や、山岳救助隊など人の命を救うことを仕事にしている人は、厳しい職場環境にも関わらず、仕事がつらいからといって退職する人はほとんどいないといいます。これはきっと、仕事に意義と誇りを見出しているからなのでしょう。

ギャラップという会社をご存知ですか?アメリカに本社を置く世論調査とコンサルティング業務を行う会社で、民間世論調査のさきがけであり、この会社のおこなう世論調査は『ギャラップ世論調査』といわれ、世界的に高い信頼を得ています。

この会社が121カ国、12万人以上の人に『昨日、大きなストレスを感じたか?』という質問をしました。その質問をもとに、各国のストレス度数を算出したのです。結果は、平均は33%、最上位はフィリピンの67%、アメリカは43%。最下位はモーリタニアの5%でした。

研究者が次に調査したのは、ストレス度数が幸福度やGDPや平均寿命にどれくらい関連しているか?ということでした。

結果は意外や意外、ストレス度数の高い国ほど平均寿命が長く、GDPが高かったのです。また、ストレス度数が高い国では、幸福度や人生の満足度も高かったのです。これは研究者たちの予想を大きく裏切る結果でした。

別の機関の調査では、『自分は生きがいのある人生を送っている』と思っている人は、大きなストレスを感じる経験を多く乗り越えていることがわかったのです。今現在、おおきなストレスを感じている人も同様でした。

ある目標を達成しようとすれば、ストレスは避けて通れない問題です。意義のある人生を送ろうとするなら、ストレスは避けられないとして、受け入れたほうがよさそうです。

ストレスはその人の価値観に左右される

こうした、大きなストレスを乗り越えることができるのは、その人が持っている価値観も大きく影響しています。震災に遭ったことで、価値観が大きく変わった人もいると思います。1990年代のある海外の大学の研究では、こんな結果が報告されています。

この実験では大勢の大学生に協力してもらい、休暇の間に日記をつけてもらいました。大学生は二つのグループに分けられ、一つのグループは自分にとって一番大切な価値観と、自分の価値観に結びつく行動について書いてもらいました。もう一方のグループには、その日のよい出来事を書くように指示しました。

休暇がおわり日記を回収し、学生たちがどのように休暇をすごしたかを聞き取り調査しました。さらに、回収した膨大な日記を綿密に調査したのです。その結果、自分の価値観について日記を書いた学生は、健康状態、精神状態も良好なことがわかったのです。休暇の間にストレスを感じていた学生ほど、日記の効果が大きかったこともわかりました。

休暇の中で、面倒だと思っていたことや、家族のことでわずらわしいと思っていたことも、自分の夢をかなえるための一歩になる、家族への愛情表現としての行動だと思えるようになったのです。

価値観を紙に書いて明確にするという作業は単純ではありますが、ストレスを感じた経験の考え方を変え、対応能力を向上させるという作用があることがわかったのです。紙に書くだけでこれほどの効果があるなら、やらない手はありませんよね?

価値観とは、日ごろ自分が大切におもっていることが反映されています。日記の実験を行った同じ大学で、今度は自分の価値観を紙に書いて、それをキーホルダーに入れて持ち歩くように指示しました。ストレスを感じる環境になったら、それを見て、自分の価値観を思い出すようにしたのです。

効果はてきめんでした。キーホルダーを身に着けた人は、困難な状況に立ち向かう勇気がもてたのです。例えば、夫が初期のアルツハイマーという診断を受けた夫婦がいました。夫婦はそれぞれのキーホルダーに自分が一番大切にしている価値観を紙に書いていれました。妻は『忍耐』夫は『ユーモア』と『誠実』でした。

それから一週間、妻は何かあるたびに『忍耐』を見てそれを実行しました。ある日、夫が携帯をなくしましたが、なんと、冷蔵庫に入っていたのです。見つけたのは妻のほうです。夫は『そんなところに置いた覚えはないんだけどなあ』とおどけてみせました。夫の『ユーモア』のおかげで、二人は深刻な事態を回避できたのです。

ただ、注意しなければならないことがあります。その価値観は本当に自分のものか?ということです。私たちは身近にいる人、例えば親や会社の同僚などからつねに影響を受けています。『いい大学に入って、一流企業に入る』とか、『勉強で一番になる』などは、無意識に自分以外の第三者の目を気にしている可能性があります。

実は人間関係のストレスは、このような『人に良く思われたい』『この人にほめられたい』というとらわれから来ていることが多いといわれています。他者の価値観を自分の価値観と勘違いしてしまっているのです。

自分の価値観にしたがって生きているはずなのにストレスを感じたら、本当に自分の価値観なのか、注意する必要がありそうです。

ストレスに強い、弱いとはどういうことなのか?

世の中には、上司に罵倒されても、数分後にはケロリと立ち直れる人がいます。体が不自由になるほどの交通事故にあったり、子どものころに親からひどい虐待を受けても、立派な社会人になり、同じような境遇の人たちに救いの手を差し伸べるような人もいます。一方で、つらい過去をずっと引きずったままつらい人生を送っている人たちもいます。

この人たちの違いはどこからくるものなのでしょうか?これは、人によってレジリエンスに差があることからきています。レジリエンスは、英語でresilienceと表記します。日本語では、『精神的回復力』『復元力』『再起力』などと訳されますが、心理学では訳さずにレジリエンスと表記するのが一般的です。(レジリアンスという表記もある)

この概念に注目があつまりはじめたのは1970年代ころからといわれています。貧困の家庭で育ったり、親を失って孤児になったりした子どもの成長過程を追跡調査していく過程で、不利な状況にあっても自力で克服して幸せな家庭を気付く人もいれば、ずっと不幸な人生を送っている人もいたのです。

この差は一体どこからくるものなのか?という研究が始まりました。そして、逆境を乗り越えた人たちには、共通した傾向があることがわかってきたのです。それは、厳しい環境の中でも、ネガティブなことにばかり目を向けないで、ポジティブな面を見出している、ということです。

ストレスに強いというのは、逆境をものともしない鋼のような精神をもつことのように思われがちですが、レジリエンスは、そうではありません。失敗を繰り返しても、順調に成長しているとか、まあ何とかなるだろうという楽観性があるのです。また、感情のコントロールもうまくできるので小さなことで一喜一憂して、無駄なエネルギーを消費しなくてすむという利点もあるのです。

PTSGという言葉をご存知でしょうか?PTSDは、心的外傷後ストレス障害のことで、別名トラウマのことです。PTSGは、心的外傷後ストレス成長と訳されています。大きなストレスを経験した後の大きな成長をあらわす言葉です。PとGの一文字が違うだけなのに、意味合いは対極にあるといってもいいくらい違います。

比較的新しい概念で、一般の人にはなじみが薄いのですが、2011年の東日本大震災あたりから臨床心理士など心のケアに携わる仕事をしている人の間では、注目を浴びています。

震災をうけた後は、誰もがショックを受けて呆然自失となってしまいました。しかし、その後、目の前にある問題を受け入れて前向きな行動をとる人、問題を受け入れられずに余計にストレスを溜め込む人とに別れました。

震災のあと、怒りや悲しみを人にぶつける人は以外と少なかったそうです。それどころか、『命が助かった自分は幸運だった』『自分だけがつらいわけではない』といったことを落ち着いて話すひとが多かったようです。

中には家族も家もすべて失ったにもかかわらず、復旧のために貢献したいという人もいたのです。ストレスに強くなるというのは、心の成長に鍵があるのかもしれません。

ストレスは種類もレベルも細かく分かれている!

実はストレスという言葉は非常に広い意味で使われています。日常のちょっとしたイライラから、深刻な精神病に関わるものまでひとくくりにしてストレスとよばれています。これは同時に、ストレスの定義をとても曖昧にしているのです。

ストレスの原因になるものは様々です。たとえば環境的なものであれば、暑さや寒さなど天気に関するものからくることがあります。肉体的には病気や怪我がストレスの原因になります。他にも不規則な生活からくる睡眠不足が原因の場合もあります。

社会人であれば人間関係職場や家庭の人間関係からくるストレスも多いと思います。上司とそりがあわない、家庭で配偶者とけんかが絶えないなど、人によっていろいろです。

こうしてみると、私たちの生活はストレスであふれているといっても過言ではありません。肉体的ストレスや不規則な生活からくるストレスであれば、自分の生活習慣を見直せば改善される見込みが高いので、たいしたことはないと思われます。

ネットでストレスを検索すると、ストレスをためない方法や、リラクゼーションの情報が数え切れないほど出てきています。ネットショップを覗けば、アロマテラピーなどの癒しグッズや、サプリメントが目白押しです。それだけ、ストレスに悩まされている人が多いということなのでしょう。

アロマやエステで解消できる程度でストレスが解消できるなら、それは歓迎すべきことです。しかし、それでは解決できないストレスも多くあります。

特に、職場や学校などの人間関係のストレスは難しいものがあります。自分ひとりで解決できることが少ないからです。ストレスがたまると、体によくない影響が出るのは、誰もがよく知るところです。

最初のうちはガマンすれば大丈夫かもしれませんが、塵もつもればの言葉通り、たまっていけば心身に不調をきたします。ひどいときは、自律神経失調症などの病気になったり、ひどいときはうつを発症してしまう場合もあります。

こうなる前に何かうつ手はないのでしょうか?ストレスをすっかりなくすことは無理でも、生活に支障のないていどに押さえることはできないものでしょうか?

それが、あるかもしれないのです。実は、最近の研究で、ストレスには今まで知られていなかった別の顔があることが報告されているのです。それは、『ストレスは有益になることもある』というものです。

おどろきましたか?ストレスが何かの役にたつことがあるなんて、にわかには信じがたいことです。でも、本当に海外の大学の研究でそのような研究結果が続々と報告されています。

一体、ストレスのどんな部分が役に立つというのでしょうか?ここで、一つ前置きしておきますが、それは『ストレスのすべてが役に立つ』ということではないということです。『ストレスは役にたつこともある』ということです。

また、ストレスも、それほど問題にならない小さなものもあるります。そういったものは、役に立つ、たたないと大げさに考える必要はないでしょう。しかし、大きなストレスを感じても、それが有益であれば、活用する方法を知っておいて損はありません。

ストレス=悪者という図式はどこからきたのか?

この実験の結果からみると、確かにストレスにはいいところなんて一つもない気がします。しかし、注意してほしいのは、この実験はあくまでマウスを使っての実験だということです。実際に人間に対してやったわけではないのです。

実はセリエの学説も、マウスの実験に基づいて導きだされた結果なのです。セリエの行った実験は、雌牛の卵巣から取り出したホルモンをラットに注射して、ホルモンがどのような影響を体に与えるのかを確認するためのものでした。しかし、ラットは免疫系の病気にかかり、次々死んでしまったのです。

セリエは、これが本当にホルモンの影響なのか疑問をもちます。別のマウスに雌牛のほかの内臓から取り出したホルモンを注射したところ、やはりマウスは似たような症状で死んでしまいました。ここから、セリエはラットが死んだのはホルモンではなく、注射が与える苦痛だったのでは?と思いいたります。

そこで、休息を与えずに運動させたり、騒音を絶えず聞かせたり、極端に気温を上げ下げしたりと、あらゆる物理的ストレスをラットにあたえました。ラットはやはり免疫系の病気にかかり死んでしまいました。

これをもとにセリエはストレス学説を発表したのです。セリエはストレスを『外部環境からの刺激によって起こる歪みに対する非特異的反応』と定義し、ストレッサーを『ストレスを引き起こす外部環境からの刺激』と定義したのです。

セリエはストレス研究の権威となり、40人以上の助手をつかい、大々的な動物実験を行います。1700にもおよぶ研究報告と7冊の本の執筆、15の論文を発表しています。ただ、これらの論文の中には、多額の実験費用を出してくれたスポンサーの意向が反映されているものもあったりして、すべてを信じるわけにはいきません。

それにセリエの学説は、そのほとんどが動物実験にもとづいているものです。これを人間にそのまま当てはめるのは、ちょっと飛躍しすぎではないでしょうか?しかし、セリエの広めたストレス学説はあっという間に世界中に知られることになりました。そのおかげで、『ストレスは体に悪い!』という印象が一人歩きするようになってしまったのです。

しかし研究が進むにつれ、ストレスが心身に悪影響を与えることばかりではないことが判明していきます。

アメリカの生理学者のウォルター・B・キャノンは、イヌやネコをつかった実験をもとに、『闘争・逃走反応』という実験報告をしています。動物が身の危険を感じると、アドレナリンが分泌され、交感神経が活発に働きだし、瞬時に行動を起こす準備が整います。その一方で、緊急時に必要の無いほかの機能は著しく低下します。こうして、動物は緊急事態に備えて、戦ったり逃げたりするエネルギーを蓄えることができるのです。人間にもこの能力は備わっています。

しかし、人間の場合は闘争も逃走もあまり好ましくない事態を招くことがほとんどです。人には役にたたない能力なのか?そんなことはありません。実は、アドレナリンなどのストレスホルモンは、筋肉と脳に効率よくエネルギーを運ぶ役割をすることがわかっています。

火事場の馬鹿力という言葉は誰でもきいたことがあると思いますが、アドレナリンが体内に放出されるということは、まさにこの状態です。火事や事故など危機的状況に遭うと、とんでもなく重いものを持ち上げて逃げ出したり、人を救ったりできるのはストレスホルモンのおかげなのです。

ストレスは身を守るために重要な役割をになっていることも多いのです。

そもそも、ストレスとは何か

ストレスという言葉は、ハンス・セリエという生理学者が1936年がイギリスの科学誌『ネイチャー』で『ストレス学説』を発表したことで広く知られるようになりました。セリエは、この学説の中でストレスを『外部環境からの刺激によって起こる歪みに対する非特異的反応』と定義し、その現象を起こす要因を『ストレッサー』と名づけました。
人の体や心は、常に一定のバランスをバランスを保つように調節されています。このことはホメオタシス(恒常性)を維持するという表現をつかいます。このホメオタシスをコントロールする仕組みを『生態機能調節系』といい、主に自律神経系、内分泌系、免疫系の3つがあります。
自律神経は交感神経と副交感神経の2つからなっています。自律神経は人間の臓器をコントロールする働きがあります。自律神経は昼間、人間が活発に活動しているときに働きます。副交感神経はそれとは逆に、リラックスしているときや、睡眠時に働きます。
内分泌系は主にホルモンの分泌をつかさどります。ホルモンは内分泌腺(甲状腺、副腎など)から必要に応じて血液に放出され、その作用を必要とする部位にまで運ばれます。アドレナリンなどは特に有名で、血圧上昇や心拍数の上昇につながり、ストレスとも密接な関係があります。
免疫系は白血球やリンパ球など、外からの異物(ウイルス、細菌など)を排出する機能をになっています。
人の健康は、このような様々な機能によって支えられているのですが、外部からあらゆる物理的、心理的なストレッサーをうけることによって、人の心理面、行動面、身体に影響を及ぼします。これをストレス反応といいます。一般に広く知られているストレスは、このストレス反応をさしていると思っていいでしょう。
ストレッサーが生体機能調節系を刺激し、ストレス反応が起こるということは比較的早くからわかっていましたが、生態機能調節系の仕組みが解明されていなかったため、なぜストレスが人の心身に大きな影響を与えるのかは、長い間ブラックボックスのままでした。しかし研究がすすみ、生体機能調節系の働きがわかってくると、ストレッサーの種類によって、ストレス反応にも違いが出てくるということがわかってきました。
ストレスには、『身体的ストレス』と『心理的ストレス』の2種類があります。身体的ストレスは環境や物理的な要因(天気、騒音、タバコ、アルコールなど)が原因でおこるものではり、心理的ストレスは職場や家庭などの人間関係が原因でおこります。
身体的なストレスと、心理的ストレスは脳のかかわり方が違うといわれています。マウスを使った実験ですが、一匹には金網でくるんで動けなくする、電気ショックを与えるなど(ひどい…)の物理的ストレスを与えます。もう一匹には、透明なアクリル板で作った部屋からそれを見せます。これは心理的ストレスを与えることになります。
身体的ストレスは脳幹の延髄を通して、視床下部と視床に伝達されます。視床下部は生体機能調節系をつかさどっています。
心理的ストレスは、大脳皮質と大脳辺縁系を通して視床下部に伝達されていきました。大脳皮質は主に人の脳で発達しており、自分の今の状態を認識する働きがあります。大脳辺縁系は、つらさなどの感情に関わっています。心理的ストレスが、心にも影響を与えるのはこれが原因になっていると考えられるのです。