視点が変わればストレスへの対処は楽になる!

ストレスはなるべく避けたほうが良いもの、ためないほうがいいものと思われてきましたが、実はいろいろな恩恵をもたらしてくれることが多いことがわかってきました。

ストレスは、人が進化していく中で発生したものです。ストレスが無ければ、敵から逃げたり、立ち向かうこともできません。また、いたわりや共感も、人間が生き残っていくために必要なサバイバル本能ということができます。

もちろん、すべてのストレスが役に立つわけではありません。自分を守るという本能には、他者を押しのける、無視するといったストレス反応が出る場合も多いのです。

しかし、ストレス反応は自分がそのストレスをどう捕らえるかによって、反応を変えることができることもわかってきています。ストレスを感じたらこう考えてみましょう。

●これは成長するチャンスだ
●ストレスを感じるのは、何か意義があるにちがいない
●この経験は、あとで役に立つ
●この状況でいい面はなんだろう?

ストレス反応で心臓がどきどきしたり、緊張したら、こんな風に考えればその場を乗り切ることができます。

●これは興奮している証拠だ
●うまくいくよう、体が準備をしている
●大丈夫、自分の体が助けてくれる

などです。

ストレスは自分の価値観に密接に関係していることもわかってきています。あなたが、どんなものに価値を見出しているかよく考えてみましょう。思い浮かばなかったら、自分がどんな人間になりたいかを考えるのもひとつの方法です。

どんな人間になりたいかわかったら、それにはどうしたらいいのか、それに伴うストレスにはどんなものがあるのか、それをどう克服すればいいかを考えてみましょう。

人には決まった思い込み(マインドセット)があります。このマインドセットは自分でもしらない間に自分の行動に影響を与えます。『ストレスは体に悪い』と思い込んでいると、本当に心臓疾患や生活習慣病にかかってしまう場合があります。しかし、『ストレスには良いこともある』という考え方ができていれば、病気はそれほど恐れるものではありません。要は、自分がどう思っているかなのです。

ストレスはうつ病の引き金にもなりますが、ストレスに意義を見出していれば、うつになる可能性はずっと低くなります。生きがいのある人生を送っている人は、ストレスが多くても健康を害することはありませんでした。

歴史上の偉大な人物は、ストレスの多い人生でしたが、うつや躁うつ病を克服し、偉業をなしとげました。ストレスを避け続けると、大きなチャンスを逃したり、逆に無力感に襲われることもあります。

大きなストレスを克服すると、人間的に成長し人に手をさしのべることができるようになります。

ストレスに限らず、物事には良い面と悪い面が両方備わっていることが多いものです。すべてのストレスに恩恵があるとはいえませんが、自分の考え方一つで、ストレスを味方につけることは可能です。ストレスがかかってきたら、自分を試すテストだ、くらいに思えればそれほど怖いものではなくなるのではないでしょうか。

SNSは必要の無いストレスを呼び込むことも…

SNSは世界中の人と交流がもてたり、本当に便利です。SNSで知り合った人が遠くからはるばる訪ねてきてくれるということも珍しくありません。しかし、最近では、SNSにのめりこむあまり、『SNS疲れ』を感じる人も出てきているようです。

SNS疲れというのは、いいね!の数を異常に気にしたり、常に更新をチェックしなくてはならないという脅迫観念にかられたりすることでおきます。こうなると、立派にストレスです。

SNSというのは、一般的にその人が楽しいと感じたことだけを載せる傾向があります。ひらたい話、『ほら、見て見てー』と自分の幸せを見せびらかしている状態です。しかし、幸せというのは、人生の一部でしかありません。つらいこと、苦しいことは誰にでもあります。

気分が落ち込んでいるときに、そういった幸せを凝縮したようなものを見せられると、ますます落ち込んでしまいます。また、自分の投稿の反応が薄ければ、いったい何がいけなかったのかと考え込んでしまう人もいるようです。リア充感を出すために、自分とはかけ離れたキャラクターを演じて、ますます悪循環におちいってしまうこともあるようです。身体醜形障害という、自分が醜いと思い込んでしまう病気を発症してしまう例も報告されています。

SNSで自分と他人をしょっちゅう比較していくうちに、自己肯定感が下がっていってしまうことがわかっています。SNSを見るたびに落ち込んだり、取り残されたような気分になることが増えていたら、黄色信号だと思ったほうがいいでしょう。

実際に、『Vol14.全国消費者価値観調査』でSNSのユーザーを対象にアンケートをとったところ、53%が『SNSを面倒だと思っている』という結果が出たそうです。実はもうやめたいと思っている人が増えているようです。

さらに別の調査では、『リア充投稿にうんざりする』というアンケートに、『イラっとしない』と答えた人は37.6%にとどまったという結果も出ています。自分の投稿でリア充を装ったという人は、『よくある』『たまにある』『一度だけある』というひとをあわせると、55%近くになりました。

こうなると、一種の依存症です。依存症は一瞬で快楽が得られる分、喪失感も早く襲ってきます。そして、ますます強烈な充実感を味わいたくて、ますますのめりこんでしまう悪循環を生んでしまいます。

これは、麻薬やアルコール、ギャンブルの依存症とまったく同じ経過なのです。こうなったら、いっそ、SNSをやめてしまったほうが健康的だと思うのですが、すぐにはやめられないのも依存症の特徴です。

やめたいのにやめられない…。それなら、まずは見る時簡を制限してみることからはじめてはどうでしょうか?『寝る前には絶対見ない』『見るのは夕食後だけ』など、ルールを決めるのです。見なくても意外と平気なことに気付く人も多いようです。

または、何か趣味や資格取得の勉強で、自分を忙しくし見る時間を減らすという方法もあります。実際、国家試験の勉強が忙しくてSNSを見なくなったら、調子が良くなったという人や、ガラケーに戻したら気分が良くなったという人もかなりいます。

SNSは基本的に道具の一つに過ぎません。道具を上手に使うには、一人ひとり、自分にあった工夫が大事です。

ストレスを感じたときの経験・感情を共有しよう!

どうしようもなく孤独を感じてしまうのは、他の人の苦しみを感じることができていないからです。自分以外の人も苦しんでいるんだと感じることができれば、孤独感や挫折感から開放されます。

ストレスを紛らわすために、ギャンブルやアルコール依存症になってしまう人たちがいます。依存症は一度かかってしまうと、ひとりで抜け出すことはまず無理だといわれています。

こういった人たちを支えるために、いろいろな自助グループやNPOがあります。その一つにアルコホーリクス・アノニマス(Alcoholics Anonymous通称AA)があります。本部はアメリカですが、アルコール依存症で苦しんでいる人であれば誰でも受け入れるとしており、匿名性を徹底しているので、会員の詳しい数などはわかりません。入会、退会も自由です。

世界各国に支部があり、日本にも全国でも頻繁に依存症体験をもつ人たちが集まります。このミーティングの目的は、「自分のアルコール依存症の体験を話す」です。もうアルコールを断ち切っている人も、まだやめられない人もここでは平等に扱われます。克服した人と克服できない人に上下関係はありません。

ミーティングで話すときは本名をいう必要もありません。出席、欠席も本人の意思にまかされています。話す内容は人によって違います。『もう●カ月飲んでいません』という報告でもいいし、『また飲み始めてしまいました』といった告白をしても、べつにとがめられることもありません。本当に、今のありのままの状態を話すだけです。

この方法は麻薬などのほかの依存症の自助グループでも採用されています。自分の苦しんだ体験を共有すると、自分は一人ではないという安心感がうまれます。

ストレス体験の共有もこれと似たような方法できます。自分がストレスを感じた体験を人前で話すのです。こうすると、表面的にはわからない他人の苦しみがわかるようになります。このときに、ストレス体験の共有が目的の場合は、そのストレス体験から何を学んだか、どんな気付きを得たかを話すと、もっと効果があります。

自分の失敗の体験を話すと、不思議と共感が生まれます。大きなストレスを感じた場合は、一人ではとても耐え切れないこともあります。たいていの人は失敗を一人で抱え込んでしまい、『自分には才能や能力がない』と思い込み、それが続くと無気力になってしまいます。

しかし、『誰でも失敗することはある』という認識を共有できれば、人に手を差し伸べることをが出来るようになるし、逆に本当に困っているときは助けを求めてもいいと気付くことができるのです。

大きなストレスを感じる出来事は、仕事や夫婦関係だけでなく、犯罪など理不尽なものもあります。こうしたことはおきないに越したことはありません。こうした経験に感謝するというのも無理な話です。

逆境には良い面も悪い面もあります。その両方を認識した上で、『ここから学べることは難だろう?』と問いかけてみるのがよいのです。ただ、無理に前向きになる必要もありません。どうしてもつらかったら、まずはそのつらい気持ちをガマンせずに受け入れましょう。

隣の芝生が青く見えるときの対処方

ストレスがたまって気分が落ち込んでいると、周りにいる人がみんな幸せそうに見えることがあります。『なんでわたしだけが、こんなつらい目にあわなきゃいけないの!?』といった感情は誰でも持ったことがあると思います。

特に最近はブログやフェイスブックなどのSNSが発達し、誰もが情報発信できるようになりました。落ち込んでいるときに、誰かの幸せそうな写真を見ていると、よけいに気分が沈んだり、怒りすらこみ上げてくることもあります。なぜでしょうか?

こんな気分になったら、芝生はどうやったら青くきれいな状態を保てるのか考えてみましょう。芝生は当然ながら生きています。ほっておけば伸び放題になるので、定期的に刈ってやらなくてはいけません。

また、芝生以外の雑草だってはえてきますから、これだって時々抜いてやらないと見苦しい庭になってしまいます。そう、きれいな芝生は『日ごろの手入れの賜物』なのです。きれいに庭に敷き詰められた芝生には、それなりの時間と手間隙がかかっているのです。

これは人でも同じことが言えます。最初から何の勉強もせずに、弁護士やお医者さんなどの高給とりといわれる職業につくことはできません。時間をかけて、こつこつ勉強してきたことがその収入につながっているのです。

隣の芝生が青く見えるときは、挫折や失敗を経験して、孤独感にさいなまれていることが多いものです。挫折や失敗は、心理学で『コモン・ヒューマニティ』といいます。訳すと、『人間なら誰でも体験するもの』という意味です。

ひどい孤独感にさいなまれているときは、この言葉を思い出しましょう。人間、失敗を経験しないで生きることはできません。例えば、映画やテレビに引っ張りだこの女優さんや、海外で活躍しているアスリートでも、過去には監督に演技力不足をけなされたり、レギュラーをはずされて泣いたりしたという告白をして、びっくりさせられることがあります。

内面の苦悩を好んで表情や態度に表す人はいません。自分が苦しんでいる姿を人に見せまいとするのはいたって自然なことです。

これはキリスト教のある牧師がこんな内容の説教をしています。
「人生は甘くない。人の苦悩はどんな苦しみや悩みを背負っているかは、誰にもわかりません。誰もが人には言えない悩みがあり、自分と戦い、がんばっている」

まさにこれは、いまをいきる人たちすべてにあてはまる言葉ではないでしょうか?苦しんでいるのは自分ひとりではないのです。落ち込んでいるときは、どうしても自分だけ、自分だけ何で?と思ってしまいがちです。

そういえば、華やかなイメージのある俳優やタレントが、テレビや自叙伝で、家族や人間関係で深い傷を負っていたり、重病とたたかっていたりしたことを告白して驚かされることがよくあります。悩みや困難な状況に無縁でいられる人はいないのです。落ち込むことがあったら、誰にでも、失敗や挫折はあることを思い出しましょう。

永遠に続くストレスは存在しない!

人には、いつの間にか刷り込まれている思い込みや信念(マインドセット)があることは先述しました。そういった思い込みには、能力や知性は生まれつきのものであり、変えることはできないといったものもあります。

しかし、『成長する思考態度』があれば年齢や性別に関係なく、誰でも進化し続けることができることが最近の研究で明らかになってきています。成長を自ら止めてしまう人の考え方を『固定された思考態度』、自分は成長できると信じている人の考え方を『成長する思考態度』といいます。

両者の最大の違いは、『自分をよく見せたい』と思っているか、『学びたい』と思って医いるかです。固定された思考態度をもっている人は、少し邪魔が入ると挫折して、学ぶことをやめてしまいます。そして、他人の成功を脅威とみなすようになります。

一方で、成長する思考態度をもっている人は学びたいという欲求が先にたっているため、困難や挑戦を進んで受け入れ、粘り強くやり続けます。結果何をやるにしても成功率が高くなります。

マインドセットを書き換える実験は海外では多数行われており、どれも高い効果を示しています。たったの30分で書き換えに成功した例もあります。アメリカでの実験ですが、カルフォルニアにある、もっとも貧しい地域にの一つにある、学力も最低レベルの高校の9年生(14歳)の子どもたちに、

●将来のあなたは今のあなたとおなじになるとは限らない
●人からどう扱われようが、どんな人間だと思われようが、あなたがその通りのにんげんだとは限らないし、将来そうなるとも決まっていない
●人間はよい方向へ変わることができる

といったことを教えたあとで、『人間は変われる』と思った出来事を、自身のことを含めて書かせました。この介入実験は学年が始まるころ行われました。学年が終わる頃、追跡調査をしてみると、この実験を受けた生徒と受けなかった生徒では驚くべき差が出たのです。

実験を受けた生徒の81%が幾何の単位を取得できたのに対し、受けなかった生徒は58%しか取得できなかったのです。健康状態、精神状態も実験を受けた生徒のほうが良好でした。

この実験は生徒たちに実験だということを説明せずに行いましたが、実験の過程を説明をした上で、大人に実験をしても効果がありました。しかし、不思議なことがあります。数年たつと、大半の人がこのような実験に参加したことをあまり覚えていないのです。ある大学での調査では、1年生のときに実験を受けた生徒に卒業前にアンケートをとったところ、全体の8%くらいの生徒しかこの実験のことを覚えていなかったそうです。しかし、実験で書き換えられたマインドセットはしっかりと定着していました。

新しいマインドセットが定着すると、がんばらずに必要な行動をとることができるようになります。マインドセットを書き換えるには、まず、新しい考え方を学ぶ必要があります。学んだら、日常生活でそれを少しづつ実行して、できたらその経験を誰かと共有すると一層効果があらわれます。身近な人とやってみてはいかがでしょうか

歴史的有名人の人生はストレスだらけ!?

歴史上の偉大な人物は、生涯精神的病と闘っていた人が意外と多いことが知られています。

アメリカ大統領エイブラハム・リンカーン、イギリスの首相チャーチル、インド独立運動の父ガンジーがうつ病をわずらっていたことは、メンタルヘルスを仕事にしている人にはよく知られた話です。

この三人の生きた時代は、戦争で世界中が大きな混乱に巻き込まれていた時期でもあります。こうした混乱の時代に対応するのは並大抵の能力ではできません。じつは、混乱時に実力を発揮した政治家は、精神的に健全な人は、あまりいないのです。

じつはうつ病には、現実を正しく認識する能力や、逆境からの反発力(レジリエンス)、他人との共感力や想像力を最大限に発揮させる力があることがわかっています。逆に精神的に健全なタイプの政治家は、平和なときには良いリーダーとなりますが、非常時に的確な判断や行動ができないことが多いのです。

例えば、前アメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュは人間的には健全な考え方をもった人でしたが、9.11がおきたときのその後の対応は後々まで世界中から非難されることになりました。健全な精神の持ち主は、自分の誤りを率直に認めるのが苦手であり、一度権力を手にすると自分の力を過信し、事実認識を見誤ることが多いのです。これは政治家でなくても、思い当たることがある人が多いのではないでしょうか?

しかし、うつ病は、常に不安にさいなまれているゆえに、自分を過信することなく事実を見極めることができるという側面があるのです。しかし、こうした指導者が力を発揮できたのは、周囲の支えも大きかったことも否定できません。

うつ病でなくとも、大きなプレッシャーを感じながらも大成した人は他にもいます。中長あわせて200以上の小説を執筆したミステリーの女王、アガサ・クリスティは一度失踪事件をおこしています。原因は夫の浮気とされています。後に夫とは離婚し、夫は相手の女性と結婚します。

事件後、マスコミはアガサをしつこく追いまわし、ありもしない憶測を書きたてます。このことがアガサの心に深い傷を負わせます。彼女はこれをきっかけに大変なマスコミ嫌いになってしまいました。

しかし、その後も精力的に執筆活動をつづけ、『ABC殺人事件』や『そして誰もいなくなった』などの傑作を残しました。

うつ病を発症するほど頑張る必要はありませんが、これは強いストレスを克服することがレジリエンスを飛躍的に成長させることの証明ではないでしょうか?

上記に挙げた人はすでに故人ですが、現代の日本でも芸能人やプロのアスリートなど、強いプレッシャーを受けながら活躍している人はたくさんいます。インターネットで名前を検索すれば、こういった人たちのエピソードはあっという間に探せます。その中から自分に似たタイプの人を探して、その人の習慣を真似てみるとストレスに強くなる方法が見つかるかもしれません。

ストレスの身体的反応への対処方とは

ストレスが役に立つものだとはいっても、強いプレッシャーがかかると自分ではコントロールできない身体的反応が出てきます。心臓がドキドキする、口が渇く、汗が止まらないなどがあります。

大勢の前でプレゼンテーションをする場合、音楽や演劇の発表会で大勢の前で楽器の演奏や演技をしなくてはならない。これは誰でも経験する、ごく当たり前のストレス反応です。避けることはできません。しかし、このストレス反応を利用してプレッシャーを克服する方法があるのです。どうせ避けることができないなら、より有利なほうへ利用してしまいましょう。

ストレス反応には様々な種類があることが最近の研究でわかってきています。強いプレッシャーがかかったときに失敗することが多いのは、『闘争・逃走反応』がおきたときです。緊張しても、成功した、大きな失敗をしなかった場合は『チャレンジ反応』がおきていたと考えられます。

この二つは身体的反応は心臓の鼓動が早くなるなど、よく似ているのですが、ふたをあけてみると、かなりの違いがあります。『闘争・逃走反応』は、危害が及ぶことを予測しておこります。体の欠陥が収縮し、体は炎症をおこします。免疫細胞を活性化させ体の回復を早めようとします。

『チャレンジ反応』は、危害を予測していないので、体はリラックスしたままで、欠陥は収縮しておらず、血流量が大幅に増え、力を最大限に発揮できる準備を整えます。

ストレスが健康に悪いといわれる原因は、『闘争・逃走反応』にあります。短期的にみれば役に立つのですが、長期に渡れば心臓病や老化の原因にもなります。『チャレンジ反応』は病気になる原因は作りません。

プレッシャーのかかる状態で『闘争・逃走反応』がおこる人と『チャレンジ反応』がおこる人の違いはどこにあるのでしょうか?それは、『ストレスは役に立つ』という考え方ができるかどうかです。

これも海外の大学での実験です。実験の参加者を3つのグループにわけて即興のスピーチをさせられます。ただし、3つのグループのうち1つのグループには『ストレス反応が起こるのは、必要なエネルギーを終結するためであり、心臓がドキドキしていたら、心臓が体と脳に酸素を送り込もうとしてがんばっているからです』と、ストレス反応が役に立つことを説明します。
2つ目のグループには、ストレス反応を感じても無視するのがいちばんいいと説明します。(実験のためのウソです。役にたちません)

3つ目のグループにはテレビゲームをしてもらて、ストレスを発散するように支持しました。ストレス反応の説明はありません。

結果は1つ目のグループにははっきりと『チャレンジ反応』がおこっていました。2つ目と3つ目のグループは『闘争・逃走反応』が出ていました。スピーチの評価も、1つ目のグループの多くが高評価を受けました。

強いプレッシャーを与えられる立場になって、ストレス反応が出たら、このことを思い出しましょう。『うまくやるために体が助けてくれている』『体が準備を整えている』と思えたら、厳しい状況に対処する力が湧いてくるのではないでしょうか。

リラックスしようとするとイライラが倍増する?

リラクゼーションの本来の意味は、交感神経の働きが抑えられ、副交感神経が優位になっている状態をさしますが、広い意味では息抜きや気晴らし、癒しなど、ストレスを解消する方法の意味にもなっています。

ストレス解消をネットで検索すると本当にいろいろなものが出てきます。ヨガ、温泉、アロマテラピー、エステ、最近はスピリチュアルも目立つようになってきました。ここまで多いと、自分に合うものを探すのも一苦労です。

リラックスしたり、リフレッシュしたりするのは悪いことではありません。しかし、あまりのめりこみすぎると思わぬ落とし穴があったりもします。特にストレスがかかってつらい状況にあるとき、『癒されたい!』と思っているなら、注意が必要です。

癒しというのは自分の問題を第三者に『丸投げ』している状態です。その瞬間は癒されて、つらいことや苦しいことが解消されたように感じますが、問題はそのまま放置されたままです。根本的な解決にはなっていません。そうすると、もっと強力な癒しを求めるようになってしまいます。

行き過ぎると、不倫にはまってしまう人もいます。最近は仕事のストレスや家庭内の不和が原因で不倫に走ってしまう人もいるようです。お手軽に不倫相手を探せるサイトが増えているのも一因かもしれませんが…。

しかし、不倫というのは相手の配偶者や職場にばれると、厄介な問題が増えることになってしまいます。癒されるどころの話ではありません。

また、スピリチュアルをきっかけにカルト宗教にのめりこんでしまう人もいます。カルトは勧誘の仕方がじつに巧妙です。最初は占いや、治療やリラクゼーションを装って近づいてきます。大学生にはサークルとみせかけて近づいてくることも多いようです。

とくに現代は、誰もが先行きに不安を感じています。そうした不安をたくみについてきます。何か問題を抱えていて不安を感じているときは注意が必要です。

こういったものにひっかからないようにするにはどうすればよいのでしょうか?精神科や心療内科で行われる『認知行動療法』にヒントがありそうです。認知行動療法は、パニック障害など、強度のストレスからくる症状を治療するために行われます。

この治療の基本は自分がどんな状況に置かれているか、それに対してどんな感情をいだいているか、どんな行動、対処方をとっているかを記録して、自分自身を客観的に見ることから始まります。それをお医者さんなど、治療にあたる人が見てその状況を再現しながら、状況を打開する方法を探すのです。

この治療法のように、自分の行動を記録し自分の抱えている問題と感情に注意を払うと、冷静に対処できるようになります。

また、自分の感情を数値化するのも効果があります。例えば、感情に1から10のレベルを設けて、『今の状況はどのレベルか?』という問いかけを自分にしてみるのです。1や2など低いレベルだったら、その感情をもたらした原因を細かくチェックします。そうすることで、いやな気分になっても、自分を保つことが容易になります。

リラクゼーションや癒しはほどほどにとどめて、今の自分の状態を常にチェックすることもストレスとうまく付き合うためには大事なのです。

ストレスをなくすと寿命が短くなる!?

日本は今、団塊の世代が続々と定年退職しています。退職金と年金をもらってこれから悠々自適な生活が待っている。うらやましい…。と思いきや、そうでもない人も結構いるようです。

定年後、うつを発症する人が意外と多いということはご存知でしょうか?何十年も会社のために、家族のためにとわき目もふらず仕事一筋でやってきたタイプに多いようです。なぜでしょうか?

まず、職を失った喪失感が挙げられます。自分を評価してもらえる場所を失い、『じぶんは誰からも評価されていない』と思い込んで、自分の存在価値を見失ってしまうことから悲観的になり、うつを発症してしまい、自殺を選んでしまう人すらいます。

また、『退屈』も大きく原因していると思われます。イギリスでの研究ですが、33~55歳の公務員を対象に、退屈のレベルを調査しました。その後の追跡調査で『非常に退屈である』と回答した人の死亡リスクが37%も高いことが報告されたのです。

彼らの多くは、人生に喜びを見出すことができず、タバコや飲酒などの健康を損なう生活習慣がその一因となっていることが明らかになったのです。また、退屈は心臓疾患の病にもかかりやすくなることもわかったのです。

それとは対象的に、いつも目的意識をもって生活している人や何か新しいことに挑戦している人は、うつになることもなく長生きする傾向があることも確認されました。新しいことに挑戦するということは、なんらかのストレスがかかることになります。

こういった点から見ても、ストレスは必ずしも悪いことばかりではないことがわかります。『生きがいのある人生を送っている』という自覚がある人は、意外とストレスフルな環境にいることは、先述しました。

定年後のうつを防ぐには、趣味をもつことがいいといわれています。また、なるべく頻繁にご近所づきあいをすることも効果的だといわれています。ボランティアに参加することも推奨されています。

これらはすべて、『充実した人生にはストレスがつきもの』『人助けは人を強くし、健康になれる』に重なります。人助けをすると自信がつくこともわかっていますから、ボランティアも理にかなっています。

忙しい人ほど人生が充実しているという調査結果もありました。一つのことに取り組むともいいのですが、あらゆることを同時進行でやることも退屈するのを防ぎます。当然ながら、ストレスもかかるわけですが、充実感も増すことになります。

『もう年だから』『いまさら自分にできることなんてない』などと先入観をもたずに、少しづつでもいいので、新しいことを始めてみてはどうでしょうか。日本人の寿命は男性でも80歳近くあります。65歳で定年退職したとしても、残りの人生は15年もあるのです。

また、パートナーと士別すると、寿命が短くなるというデータもあります。喪失感からくるストレスも寿命を縮めるのです。それを防ぐためにも、充実感を味わえるものを探しておく必要があります。

ストレスを避け続けると負のスパイラルが待っている

ストレスはあえて受け入れたほうがよい、ということを中心に話を進めてきましたが、逆に、プレッシャーのかかること、不安なことを避けているとどういうことになるのでしょうか?

人ごみの中にいると心臓がドキドキしてきて、呼吸困難などがおきる『パニック障害』という病気があります。ある女性がこの病になってしまいました。ところが、お子さんが電車で小学校に通うことになり、毎日それに付き添っていかなければなりません。

この女性は以前にも電車で症状が出て、それ以来なるべく自転車を使うようにし、電車はさけていました。しかし、これがよくなかったのです。

何か強い不安を感じたり、PTSDになっているときは、一時的にそこからみを引くの正しい行動です。しかし、不安というものは15分ほどたてばだいぶ落ち着いてきます。1時間半もあれば、ほとんどゼロになってしまいます。

しかし、女性は症状が出たところで電車を降りてしまっていたのです。そのときは救われた気分になるかもしれませんが、これで脳が『電車はダメだ!』と間違った学習をしてしまったのです。

パニック障害が常に出るとは限りません。少し勇気を出してそのまま乗り続けていれば、大丈夫だった可能性もあるのです。不安なものを避け続けていると、恐怖は倍増してしまうのです。きびしいようですが、少しづつでも立ち向かっていかないと、いつまでも克服することはできません。この女性は後にお医者さんの指導のとおりに少しづつならしていって、克服することができました。

電車くらいであればまだいいですが、つらいことを避け続けていると、思わぬチャンスを逃してしまうことも考えられます。また、無力感がどんどん膨らんで、行動することができなくなります。

何か重大な役割を任されたとき、それを辞退したり、放棄したりしたら非常に大きな代償を払うことになりかねません。または、目の前にある問題を見て見ぬ不利をするためにアルコールやパチンコで気を紛らわせたりしていませんか?

ストレスを避けつづけると、こんなにストレスを感じるのは自分に能力がないからだという思い込みを強めてしまいます。『ストレスは害になる』と思い込んでいると、ストレスに打ちのめされて無力感が襲ってきます。結果、うつ病を発症したり寿命がちぢんだりしてしまうのです。

『ストレスは役に立つ』『ストレスには意義がある』と思っていた人は、ストレスフルな状況にあっても健康な状態を保っていたということを思い出してみてください。

『ストレスが体に悪い』というのは世間からあなたに刷り込まれた、一般的な価値観です。ストレスのかかる状況が大きなチャンスに繋がると認識を書き換えれば、ストレスに対して大きな不安を抱えずにすみます。

すべてのストレスが良いものだとはいえませんが、だからといって避けてばかりいると、毎日が無味乾燥なつまらないものになってしまいます。ストレスが、生きがいと密接につながっていることを忘れないようにしましょう。